沖縄に暮らす人々にとって、とても重要な曲があります。
特に沖縄本島地方では必ずと言っても良いほどお祝いの席で始めに演奏される楽曲です。
少し大袈裟かもしれませんが沖縄の人にとって国歌のような存在の楽曲です。
琉球古典音楽や琉球舞踊の代表曲でもあり正に沖縄の魂の楽曲ではないでしょうか？
今回はその「かぎやで風」の歌詞や曲について紐解いて行きたいと思います。

普通に読むと“カギヤデフウ”となりますが、実は“カギヤデフウ”とは読みません。
「かぎやで」は平仮名なので「風」が沖縄独特の読み方があるのではないか？と思われる方もいるかもしれません。
しかし、読み方が違うのは平仮名表記の「かぎやで」の方で「かぎやで風」と書いて“カジャディフウ”と読みます。
これは沖縄の方言だから読み方が違うのではなく、いわゆる歴史的仮名遣や旧仮名遣と言われるものです。
古典の授業で習う「ゐ」を「イ」と読むものや「けふ」を「キョウ」と読むのと同じことなのです。

今日（きゆ）の（ぬ）誇（ふく）らしゃや
何（なう）にぎやな（ぎゃな）譬る（たてぃる）
蕾（つぃぶ）で（でぃ）居（う）る花の（ぬ）
露行（つぃゆ）逢た（ちゃた）ごと（ぐとぅ）

歌詞は沖縄の言葉（うちなーぐち）で書かれています。沖縄の言葉（うちなーぐち）が分からない方にとっては何を言っているのか意味が分からない事と思います。
歌詞の内容を訳すと以下のような内容になっています。

今日のうれしさは
何にたとえられるだろうか
蕾（つぼみ）のままだった花に
露（つゆ）がついて花開いたようだ。

大きな喜びを蕾の花が開いたことに例えて美しく表現した歌詞になっています。
お祝い事や一大イベントの最初に演奏するのに相応しい内容になっています。
だから結婚式などの祝宴や舞台の幕開け、お正月など喜ばしい行事で一番始めに演奏されることに頷けます。

沖縄では古くから読まれた定型詩があります。沖縄方言（うちなーぐち）による8・8・8・6の30文字の詩型で、和歌と同じようにウタとも言われます。琉歌は昔の沖縄の人は文字が書けなくても誰でも即興で詠んでいたそうです。沖縄の民謡や琉球古典音楽（宮廷音楽）の多くがこの琉歌の形式で歌われています。「かぎやで風」もご多分に漏れず琉歌の形式をとっています。

琉歌の形式の中で最初の8＋8文字の16文字を上の句、後の8＋6文字の14文字を下の句と言い、詩の中に段落があります。

この段落は音楽的な楽節構造とも一致していますが、「かぎやで風」では下の句を2回繰り返してリフレインのように演奏します。

祝の席では必ず始めに演奏される楽曲と説明してきましたが、一年で一番最初に訪れるおめでたい行事と言えばやはりお正月です。

沖縄のお正月では「かぎやで風」が定番として演奏されています。
沖縄には数えきれない程の三線教室があります。三線教室では一年の初稽古として儀式的に「かぎやで風」を演奏する教室も少なくないです。

お正月に演奏する際は普段演奏する歌詞とは異なるお正月用の歌詞が存在します。
その歌詞が以下。

新玉（あらたま）の（ぬ）年（とぅし）に
炭（たん）と（とぅ）昆布（くぶ）飾て（かざてぃ）
心（くくる）から姿（すぃがた）
若（わか）くなゆさ

歌詞の意味は「新しい年を迎えて炭と昆布を飾って身も心も新しく（若く）なるようだ」と言う内容になっています。

“炭と昆布を飾る？”と思われる方もいるのではないでしょうか。沖縄では“炭と昆布”を“たんと喜ぶ”という語呂あわせで縁起が良い物としてお正月にお供えする風習があるのです。

琉球古典音楽とは琉球王朝時代に宮廷の保護のもとで演奏された音楽で、多くは外国からの使者をもてなす為に演奏されていた音楽です。

多くの沖縄民謡は三線と同じメロディーもしくは三線のメロディを少し変えたユニゾンに近い楽曲がほとんどですが、琉球古典音楽では三線の伴奏と歌のメロディが拍節的にも大きく異なっており、歌は母音を伸ばすことが特徴的でベルカント唱法に似た音楽であり技巧的でメロディーも複雑で演奏するには技術を要します。

「かぎやで風」も母音を伸ばしたメロディーで琉球古典音楽で用いられる特徴を含んでいます。
また演奏される機会も多い為、琉球古典音楽の代表的楽曲として多くの沖縄の人々に親しまれています。

琉球舞踊は琉球古典音楽が複数曲組曲のように使用される事が多い為、琉球古典音楽の定番である「かぎやで風」は琉球舞踊の定番でもあるのです。

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